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ほうれん草の各成長ステージ別「積算温度(GDD)」に関する包括的調査報告

概要

本報告では、ほうれん草(Spinacia oleracea)の生育3段階(発芽期、生育期、抽苔・開花期)ごとの積算温度(Growing Degree Days, GDD)について、国内外の信頼性の高い学術論文・農業ガイド等に基づき徹底調査を行った。明確なステージ別GDD値が見つからなかった場合は、公的ガイドや研究から入手した日数、気温、基準温度(Tbase)を用いて合理的な推定を実施した。各ステージのGDD推定に用いた前提や算出方法も合わせて詳細に説明する。

積算温度(GDD)の基本とほうれん草における基準値

成長度日(GDD)は作物の発芽・生育・開花の進行度を示すための指標であり、以下の式で計算される。

GDD = {(最高気温 + 最低気温)/2} - 基準温度(Tbase)

  • ほうれん草の基準温度(Tbase): 4.4°C(40°F)が一般的に用いられており、国内外の公的・学術資料でも共通している[1][2]。
  • 最適発芽温度: 15~20°C(これ以上で発芽率低下)[3][4][5]。
  • 生育最適気温: 発芽後も15~20°Cが推奨され、20°Cを超えると生育停滞や抽苔しやすくなる[5][6]。

各成長ステージの概要とGDD計算のための前提

明確な各ステージごとのGDDが文献上存在しないため、主要農業技術ガイドや論文の記載をもとに、次の前提を置いて推定する。

前提

  • 基準温度(Tbase): 4.4°C
  • 平均気温: 各ステージの最適値である15°C(保守的推定)、寒冷地の場合などは若干日数が延びる。
  • 日数: 発芽=10日、生育期=35日(中央値利用)、抽苔までは合計約45日と設定(品種・環境で変動あり)。

各ステージのGDDは「(平均気温-基準温度)× 日数」で計算した。

発芽期のGDD

発芽期の環境・日数

  • 最適発芽温度: 15~20°C[3][4][5]
  • 発芽に要する日数: 5~14日、中央値10日(参考:実測では気温・土壌条件による)[3][5][6]

発芽期GDD推定

  • GDD = (15°C-4.4°C) × 10日 = 106 GDD(単位:°C・日)

発芽に必要な積算温度:
約100~120 GDD(平均気温15~16°C、10日間の場合)

文献上の発芽日数参考

  • 米国・日本の指導マニュアル、タキイ種苗栽培マニュアル等いずれも5~14日の幅が記載されており、10日前後が標準的である[3][5][6]。

生育期(発芽後~抽苔前)のGDD

生育期の環境・日数

  • 最適温度: 15~20°C、20°C超で生育停滞[5][6]
  • 生育期間: 28~42日(単一葉期~抽苔開始まで)[6][7]

生育期GDD推定

  • GDD = (15°C-4.4°C) × 35日(中央値)= 373 GDD

生育期に必要な積算温度:
約350~470 GDD(気温15~17°C、日数28~42日を想定)

※この期間は発芽後の生長(葉の展開・茎葉形成)が該当し、寒冷条件では日数がやや長くなる。

文献・ガイドの補足

複数の海外・国内ガイドで「播種後45日前後で収穫期(抽苔開始前)」とされ、その大半がこの生育期に該当[5][6][7]。

抽苔・開花期

抽苔開始の条件

  • 抽苔発生要件: 日長13時間以上、かつ高温(20°C超)で促進[6][8][9]
  • 抽苔自体はGDDだけでなく、日長反応要素が極めて重要。このためGDDの積算値は直接的な閾値として機能しない側面が強い。

抽苔開始までのGDD累積(推定)

生育期までの積算と合わせ、ボルト開始時点でのGDDは:

  • 発芽期~生育期合計GDD: 106 + 373 ≈ 480 GDD

抽苔自体の進行には日長や高温の影響が強く、学術論文・公的資料いずれも「抽苔には明確な積算温度閾値は規定できない」としている[6][8][9]。

補足:日本国内の実態

  • 北海道等の産地技術指導でも「抽苔は気温上昇と長日で急速に進行」「日長13時間以上、気温20°C以上でリスク増」とされ、積算温度・GDD管理より日長・気温管理が重視されている[8][9]。

ステージ別GDDまとめ(推定値一覧)

ステージ日数目安平均気温推定GDD (°C・日)
発芽5-1415-2050~150
生育28-4215-17300~470
抽苔・開花------収穫・抽苔前まで合計約480 GDD、だが抽苔進行自体は日長・高温影響大

計算方法・前提の注意点

  • 本推定は文献の平均的な日数・気温に基づき、GDD基本式を用いて算出。
  • 各地の実際の気温、播種時期、品種(早生・晩抽種等)で大きく変動しうる。
  • 抽苔はGDDよりも「長日」と「高温」が主因のため、GDDによる明快な管理は困難。

まとめ

  • ほうれん草の成長管理では、GDDによる目安は「発芽~生育期」については活用可能
    • 発芽にはおおよそ100 GDD(10日間、15°C計算)を、 生育期(収穫適期)にはおおよそ350~470 GDD(総計450GDD前後)を目安とする。
  • 抽苔・開花期の到達は積算温度以上に日長(13時間以上)・高温(20°C以上)が関与しており、GDD管理単独では制御困難。季節・日長管理や播種時期調整が有効。
  • 国内外の最新文献・栽培マニュアルいずれも「GDDのみで抽苔を予測・管理する」手法は掲載なし。
  • 品種特性や環境(露地・施設、土壌条件)に応じて各自で実測気温データを用いることが最善。

参考文献

Sources

[1] Growing Degree Days - Cultivation Ag: https://cultivationag.com/growing-degree-days/
[2] Base and upper temperature thresholds to support the calculation of growing degree days and crop coefficients in the FAO56rev guidelines - Agricultural Water Management (2025): https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S037837742500469X
[3] Effect of Temperature on Seed Germination in Spinach (Spinacia oleracea L.): https://journals.ashs.org/view/journals/hortsci/51/12/article-p1475.xml
[4] Growing Spinach: Complete Life Cycle Guide - Vaki-Chim: https://growplant.org/blog/spinach-life-cycle/
[5] タキイのホウレンソウ栽培マニュアル(日本語): https://www.takii.co.jp/tsk/manual/pdf/hourensou.pdf
[6] ほうれん草の生態に関する研究(第1報): https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/11471/files/erar-v5n2p22-35.pdf
[7] How to Grow Spinach - MSU Extension: https://www.canr.msu.edu/resources/how_to_grow_spinach
[8] 営農改善指導基本方針 北海道農政部: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/1/2/8/9/3/2/0/_/令和2年営農改善指導基本方針.pdf
[9] Growing Spinach, A Cool-Season Vegetable - Penn State Extension: https://extension.psu.edu/growing-spinach-a-cool-season-vegetable