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人参の各成長ステージごとのN(窒素)、P(リン)、K(カリウム)吸収量(g/m²):最新研究と推定方法
概要
本報告では、人参(Daucus carota L.)の各成長ステージ(発芽、葉茎伸長・栄養成長、根部肥大、開花・抽苔)における窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)の吸収量(g/m²)の直接的な測定データと、データが不足している場合の推定方法について、国内外の一次科学論文、農業試験報告、公的機関の資料などをもとに総合的に解説する。直接的な計測値が得られなかった場合には、論理的な推定手順とその根拠を明確にする。なお、可能な限り日本の栽培条件下の情報を優先し、必要に応じて国際的な研究も参照する。
1. 成長ステージとNPK吸収パターンの概観
1.1 人参の主な成長ステージと定義
- 発芽期:播種から本葉展開まで
- 葉茎伸長・栄養成長期:本葉展開から根の肥大開始まで
- 根部肥大期:主根が急速に肥大する期間
- 開花・抽苔期:春化処理・抽苔から開花に至るまで。ただし、収穫型栽培では通常、開花前に収穫するため、本ステージのデータは種子栽培等に限定
1.2 NPK吸収のタイミング概略
- 最も激しい養分吸収は、葉茎伸長~根部肥大期(根の急成長・葉の最大展開)に集中する[1][3][4][5]。
- 発芽期の吸収は全体のごく一部であり、葉茎伸長期の途中から根部肥大期にかけて、全吸収量の70~80%が集中する。
- 開花・抽苔期は主に種子用栽培で問題となるが、栄養成長や根部肥大後は吸収は減少か停止傾向[4][5]。
2. 総吸収量(g/m²)に関する直接測定値
2.1 国際的な直接測定値
- 最新の大規模試験[1]によると、カリフォルニアの砂漠地帯での人参では、「平均的な吸収量」(収穫時に地上部・地下部で植物体が実際に吸収した養分の合計)は以下の通り:
- 窒素(N):20~30 g/m²(200~300 kg/ha)
- リン(P2O5換算で):5~8 g/m²(50~80 kg/ha)
- カリウム(K2O換算で):16~20 g/m²(160~200 kg/ha) ※kg/ha→g/m²換算:1 kg/ha = 0.1 g/m²
- Mooreら[4]では、根部単体から根K2O含有量170 kg/ha(17 g/m²)、NやPも類似規模で吸収との記述。
- 日本の公開資料である「日本土壌肥料学会土壌肥料試験法」や農業技術者協会の栽培指導でも、収穫時のNPK吸収量は大きな差はなく、目安としておおよそ N:20~30g/m²、P:5~7g/m²、K:16~20g/m² 程度とされる。
参考価参照(すべて推計値に近いものを含む):
- [1] カリフォルニア フレップ(FREP)ガイドライン(実測値)
- [4] Mooreら(2021)季節的養分分配(実測値)
- [3] Yara社 サマリー(国際推定値)
2.2 日本国内の文献・行政指導値
- 農研機構や地方自治体の栽培指導、肥培管理ガイドラインも国際標準とほぼ同値。
- 土壌条件や品種、気候による差はあるが、1作期あたりN:20~30g/m²、P:5~7g/m²、K:16~20g/m² が主流[2][5]。
3. 成長ステージ別NPK吸収量推定法
3.1 直接測定データの有無と課題
- 成長ステージごとのNPK吸収「実測値(g/m²/ステージ)」は日本のみならず、国際的にも未報告がほとんど[1][4][5]。
- 海外大規模試験でも、吸収パターンの「曲線」や「伸びの急激な時期」は示されるが、厳密なグラム換算はされていない。
- 主要な研究は、周年吸収曲線またはステージ別吸収比率などから割合推定を行う。
3.2 推定方法の手順
(1)バイオマス累積カーブ・吸収曲線モデルの利用
- 人参の生育と養分吸収は概ねS字カーブ(ロジスティック型)を描く[1][5]。
- 代表的手法として「各成長ステージごとのバイオマス増加量」を全体累積の比率と見なし、NPK吸収比率に適用
- 例:根部肥大期で全乾物の60%が蓄積すれば、その間のNPK吸収も全体の60%と仮定
- Montazarら[1]は、80~130日目(葉茎伸長後半~根部肥大)でN全体の約50%の吸収と実測で示す。
(2)標準的比率の適用(国際ガイドライン)
- CDFA FREP[5]やYara UK[3]、Mooreら[4]などは、以下のような吸収分布モデルを提案
- 発芽期:全体の数%程度
- 葉茎伸長・栄養成長期:全体の15~30%
- 根部肥大期:全体の50~60%
- 開花・抽苔期(もし栽培する場合):全体の5~10%未満
(3)具体的g/m²換算例(推定値)
最大値(例:N合計30g/m²)の場合、推定分布は以下の通り:
| 成長ステージ | 割合(目安) | N(g/m²) | P(g/m²) | K(g/m²) |
|---|---|---|---|---|
| 発芽期 | 3% | 0.9 | 0.2 | 0.5 |
| 葉茎伸長・栄養成長期 | 17% | 5.1 | 1.2 | 3.4 |
| 根部肥大期 | 55% | 16.5 | 3.5 | 9.9 |
| 開花・抽苔期 | 5% | 1.5 | 0.35 | 1.0 |
| 合計 | 80% | 24 | 5.25 | 14.8 |
注:開花・抽苔まで栽培するケースで残り約20%分を分散。果実型(種子取用)でなければ多くは根部肥大終了後収穫となる。 (この表は複数の国際ガイドライン[1][3][4][5]の記述に基づく推定値で、実測値ではない)
3.3 モデル推定の裏付けとその限界
- 上記推定法は、生育後期で吸収が止まること・急伸長期に吸収が最大化するという実測観察に一致[1][4][5]。
- 気候・土壌条件や中間期のストレス、施肥時期等によって内訳は変動。
- 品種・栽培目的(根利用・種子利用)によるパターン違いもあるため、細かな調整が必要。
4. 考察・応用上の留意点
4.1 総吸収量と施肥量の乖離
- 実際の施肥設計では、NPKの土壌残留、流亡・固定、利用効率を考慮し、吸収量より多めに施肥することが通例。
- 施肥過剰や地下水汚染、作物の品質低下を防ぐため、上記推定吸収曲線を基に、段階別施肥(トップドレッシング)や土壌診断活用が重要[1][3][5]。
4.2 日本での応用の際の差異
- 日本の実践指導や土壌診断でも上記と大きな違いはないが、降雨・高温多湿による成分損失には要注意。
- 前作残存養分・有機物分解も考慮し、根部肥大期に重点施肥することが推奨される。
5. 結論
- 直接的な成長ステージごとのNPK吸収量(g/m²/ステージ)の実測値は、現在のところ日本・海外問わずほぼ存在しない。
- しかし、総吸収量(N:20~30g/m²、P:5~7g/m²、K:16~20g/m²が標準規模)と、吸収ピークが根部肥大期(作型によっては葉茎伸長後半)に顕著化する等のパターンは確立している。
- ステージごとの吸収量は、標準的な吸収時期分布モデルと吸収量の合計を組み合わせた推定が最も現実的かつ実践的である。
- 日本の栽培現場・計画施肥にも、この方法論と最新の土壌診断・生育調査の組み合わせが最適と考えられる。
Sources
[1] Montazar, A., et al. (2023). Enhancing Nitrogen and Water Use Efficiency in California Carrot Production Through Management Tools and Practices, UC Desert Research and Extension Center (DREC). https://www.cdfa.ca.gov/is/ffldrs/frep/pdfs/20-0960_montazar_fr.pdf
[2] Matsumoto (1999). Cited in: PRODUCTIVITY IMPROVEMENT OF CARROT (Daucus carota ...), JPP Journals. https://jpp.journals.ekb.eg/article_171590_f2edfd881bb148152ccd110258e49e54.pdf
[3] Yara UK. Carrot nutritional summary. https://www.yara.co.uk/crop-nutrition/carrots/carrot-nutritional-summary/
[4] Moore, A.D., et al. (2021). Seasonal nutrient partitioning and uptake in hybrid carrot seed crops. https://acsess.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/agj2.20503
[5] California Department of Food and Agriculture (CDFA) FREP. CA Fertilization Guidelines - Carrot Nitrogen Uptake. https://www.cdfa.ca.gov/is/ffldrs/frep/FertilizationGuidelines/N_Carrot.html
[6] Seljåsen, R., et al. (2001). Nutritionally Important Chemical Constituents and Yield of Carrot. Acta Agriculturae Scandinavica, Section B — Soil & Plant Science. https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/09064710127616
[7] Seljåsen, R., et al. (2001) Supplementary PDF version. https://findresearcher.sdu.dk/ws/portalfiles/portal/118513258/Acta_Agriculturae_Scandinavica_Section_B_Soil_Plant_Science_2001_51_3_125_136.pdf
[8] CABI Compendium (2015). Daucus carota (carrot), A. Praciak. https://www.cabidigitallibrary.org/doi/full/10.1079/cabicompendium.18018
[9] Frontiers in Plant Science. Evaluation of carrot (Daucus carota L.) varieties for growth ... https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2025.1505302/full